「ワンコの健康簡単チェック−4.心臓病」


 (質問)

  @興奮すると、咳が出る。

 A夜寝ている時に咳が出る。

 B興奮・運動の後で舌の色が悪くなる。

 Cちょっとしたことで、ハーハーする。

 D散歩や運動を嫌がるようになった。

 E以前より疲れやすくなった。

 F突然倒れたことがある。

 G5歳以上である。

 H太っている。

 Iフィラリア予防はしていない。

(判定)

*YESが4個以上だと心臓が弱っているかも。7個以上だと深刻な心臓疾患の疑いがあります。


(解説)

 読む人のために、少しでも役に立つ情報をお届けしたい、そんな思いから今回は「心臓に悪い」地球規模の話で始まります。

人類が産生する熱が主原因の地球温暖化により、この100年間で地球全体の平均気温は約0.6度上昇しました。また緑の減少や車・エアコンの排気熱によるヒートアイランド現象により大都市では2.4度も上昇しているそうです。確かに去年の夏は、暑かった・・京都は特に暑かった・・今後も温度上昇は続くらしく、今年の夏も猛暑だそうです!で、この暑さが、ワンコの心臓には大敵なのです。ワンコは人間と違って汗をかいて体温調節が出来ません。ハアハア呼吸して調節します。呼吸数を増やすと心拍数が上がり、その状況が続くと心臓に負担がかかります。そのせいで、暑い季節は心臓のトラブルが多発します。実際、うちの病院では昨夏、熱中症や心臓疾患で来院するワンコが例年より増加していました。今回は、暑い季節を迎える前に、心臓病について考えてみましょう。

1・心臓病の症状および類似疾患

ワンコの心臓病の主な症状は、咳(@A)、呼吸困難(BC)、運動不耐性=疲れやすい(DE)、失神(F)などが挙げられます。

@A咳・・心臓病の咳は、夜寝ているときと興奮時(飼い主さんが帰宅して嬉しいときなど)に目立ちます。人間のコンコンする咳と異なり、食べ物がノドに詰まったようなガハガハという特徴的な咳で、最後にカッと痰を出すような動作で落ち着くことが多いようです。心臓性の咳は自律神経と関係が深く、緊張するとおさまることがあります。夜中じゅう咳をするという理由で来院したワンコが、動物病院に来たとたん緊張のせいでピタリと咳が止まってしまい、飼い主さんが不思議がることがありますが、これはそのためです。心臓病以外に咳が出る病気には、気管支炎や気管虚脱などの呼吸器疾患があります。

BC呼吸困難・・安静にしていても息が荒い、少し運動しただけで息が荒くなるといった症状は、心臓病で血液循環が悪いためにおこります。肺水腫のような呼吸器病でも似たような症状が見られます。

DE運動不耐性・・心機能が低下すると疲れやすくなり、以前のような活発さが見られなくなります。悪化すると散歩の途中で疲れてへたりこんだり動けなくなることも。関節炎や椎間板疾患のときも同じように運動を嫌うようになるので、鑑別には注意が必要です。

F失神・・心臓は血液を全身に送り出すポンプの働きをしています。ポンプが弱くなると全身に流れる血液循環が低下し、さまざまな症状が現れます。脳に行く血液が不足すると脳貧血から酸欠状態に陥り、短時間ですが失神してしまいます。てんかん発作のような脳疾患でも失神は見られますが、前兆もなく倒れ、すぐに復活するのが心臓由来の失神の特徴です。

2心臓疾患の発症要因

GからIは心臓病の症状ではなく、発症要因の観点からの質問です。ワンコの心臓病は、0.1%程度の割合で発症する先天性心疾患を除くと、中年以降に発症率が高まりますので、GがYESのワンコはみんな、要注意です。さらに人間の場合と同様、肥満は心臓病の発症リスクを高めますので、HがYESのワンコの飼い主さん、ダイエットを始めましょう。また、かつてはワンコの死亡率第一位だったフィラリア症は、予防薬の普及で激減しましたが、いまだに全国的に散見されます(当院でも毎年きちんと予防していたのに、一ヶ月うっかり飲ませ忘れたために感染してしまったワンコが何例かいました)。IがYESの飼い主さんは、今年からでもぜひ予防を始めてあげてください。

3.家庭でもできる心臓のチェック

ワンコの心臓病は、小型犬で多い僧帽弁閉鎖不全症や大型犬で多い心筋症、高齢からくる慢性心不全など多種にわたります。今回は症状からみた総論を書きましたので、病気の各論や治療法について詳しくお知りになりたい方は、12月号と4月号の「健康管理のエトセトラ」に詳しく書いてありますのでそちらをご参照ください。もっていない方は、ぜひバックナンバーのお取り寄せを!(PR)

そもそも犬は心臓疾患の多い動物です。高温多湿気候のわがジャパンではなおさらで、夏場と季節の変わり目(温度変化が激しいから)は特に要注意です。これからの季節、ワンコのために一日中クーラーをつけている飼い主さんもいっぱいいらっしゃいますよ。

では最後に、飼い主さんが家庭でも出来る心臓チェックについてお話しましょう。両方の後ろ足の付け根、そけい部といわれる部分を指で押さえてみてください。ここには、大動脈から後ろ足へ行く太い血管(内股動脈)があり、トクトクと脈打っています。人の場合は手首の血管ですが、我々獣医は聴診と合わせてここで血液循環の状態を把握しています。健康時の血流の強さを覚えておくと、心機能が低下してきたときに血流が弱くなったり脈が不整になったり、など異常の早期発見につながります(血管の位置がわかりにくかったら、動物病院で質問してみてください)。心臓病が悪化してからより、早目に治療を始めたほうが当然ながら余命率は上がります。@からFのチェックを怠らないのと同時に、時々は内股に手を入れてみて、あなたのワンコの健康を守ってあげてください。