「ワンコの健康簡単チェック−1.肥満」



 (質問)まずは次の10個の質問を、あなたのワンコについて考えてみましょう。では、早速スタート!

@満1歳時の体重と比べて、今の体重は15%以上増えていませんか?

Aわき腹を触ってみましょう。左右の肋骨が数えられますか?(ちなみに、犬の肋骨は全部で13対です)

B背中の中心線をなぞってください。背骨の凹凸が触れますか?

C首の皮膚を親指と中指でつまんでみてください。指の間の肉がむっちり分厚くないですか?

D横からおなかを見て、ポッテリとでっぱっていませんか?

E毎日のように、おやつや人の食事をもらっていませんか?

F家の中で名前を呼ばれたとき、すばやく走って来れますか?

G散歩に行ったとき、軽快に走ることができますか?

H抱っこしたとき、痛がって鳴くことはありませんか?

I散歩から帰ったあと、息がいつまでも荒くないですか?

(判定)「YES」が4つ以上あったら、肥満と考えていいでしょう。7個以上あったら、あなたのワンコは肥満だけでなく、何らかの病気の可能性があります。

(解説)年寄りはすぐに昔を回顧してしまうものですが、私の子ども時代は近所に太っている犬はほとんどいませんでした。TVで見る野生のオオカミみたいに、みんなおなかはシュッと締まっていてあばら骨が数えられたもんです。ところが昨今、うちの病院に来るワンコは肥満のコが多いこと。肥満は病気ではなく、体の状態を表現する言葉ですが、「理想体重に比べて体重が15%以上オーバーしていること」を意味します。肥満に関する正式な統計はありませんが、通説では家庭で飼われているワンコの30%は肥満状態だそうです。私の感触では肥満と太り気味のワンコを足すと半分は軽く超えていると思います。

@で言う満一歳のときの体重が一般的には理想体重と考えられています。一歳までは成長期とみなされますが、それ以降の体重増加ははっきり言って、贅肉・脂肪・ムダ肉です!ここで、一歳のときの体重がわからない?という飼い主さんとワンコは、すでに管理意識が欠如している、と言われても仕方ありません。100グラム単位で量れるデジタル体重計、この機会にぜひ買ってください。そして、体重を月に二回は測定し、メモしましょう。

AからDは体脂肪がつき過ぎているかのチェックです。EがYESだと食生活の乱れを意味します。

FからIがYESのワンコは、肥満が関連する病気の可能性があります。そもそも、なぜに「肥満」を健康簡単チェックの栄えある第一回のテーマに選んだかといいますと、「肥満は万病の元」とも言うようにさまざまな病気の発症要因になるからです。ざっと並べてみますと、

・関節炎(FG)椎間板疾患(H)・・過度の体重を体が支えきれなくなる。

・心臓疾患(H)・・体脂肪が多いと、血液を全身に送るのが大変なんです。

・皮膚病・・皮脂腺の分泌が増えるので、抵抗力が落ちたり体臭が強くなったり。

・肝臓膵臓疾患・・脂肪肝や胆泥症、糖尿病のリスクが高まります。

・麻酔のリスク・・私の立場で言わせてもらえば、これが一番困ります。麻酔の効きや覚めが悪くなるし、開腹した時に脂肪だらけだと手術しにくいし出血しやすいし、哀しくなります。

(肥満のメカニズム)肥満はなぜにおこるのか?算数的に説明すると、摂取カロリーが消費カロリーを上回ったとき、余分なカロリー分が脂肪となって体にたまるのです(人間の場合も一緒でっせ)。犬の場合、基礎代謝量は1歳を超えると低下してゆくので、毎日同じカロリーを摂取し続けていると、年とともに脂肪が増えることになります。もう一つの理由としては、仔犬時代の食生活が挙げられます。体の脂肪量は、脂肪細胞の数に比例しますが、その脂肪細胞の数は仔犬時代に決定されます。つまり、必要以上の高カロリー食で子犬を育てると脂肪細胞の数が増え、成犬になってからはその一個一個の細胞に脂肪が蓄えられてしまうので肥満が進行するのです(人間の場合も一緒でっせ)。つまり、仔犬のときから主食の他におやつとか人間のお菓子とかを必要以上に与えて育て、運動不足で筋肉はつけずに脂肪ばかり増やし、しかも安穏と暮らしているのでアドレナリンが出るポジティブなストレスもなしに毎日を暮らす・・これで肥満ワンコの出来上がりです(人間の場合も一緒かもしれまへんでえ!)。肥満にまつわる問題の中でもっとも深刻なのは、そのような肥満状態を、飼い主さんが「よし」としていることかもしれません。犬は太っているほうが可愛い、という風潮は獣医の立場で考えた場合、病気を引き起こし、平均寿命も短くなることがデータ的にもわかっているだけに、「かーつ(喝)!」と言いたくなります。

 (対策)では次に、肥満を防ぐ、治す方法について考えてみましょう。肉食に近い雑食性の犬はドカ食いできる大きい胃と短めの腸で食べ物を消化しています。食事は小分けにした方が消化によく、脂肪になりにくいことがわかっています。一日3回以上(できたら6回くらい)が理想的です。一回あたりの食事量が足りなさそうならフードをふやかす、野菜類を追加で与える、などが有効です。また、ダイエットは急激に行うと肝臓など体を痛めることもあります。それぞれのワンコにあったカロリーや必須栄養素の量を動物病院で算出してもらって、3ヶ月とか半年スパンで計画的に行いましょう。でもダイエットに一番肝要なこと、それは「家族みんなが協力して、管理してあげる」隠れておやつをあげることは、ワンコにとってその場は嬉しいことでも、長い一生の中で考えると決していいことではないのですよ。