東洋獣医学-臓腑


温泉好きで有名なワタクシ、今年はすでに冬は城崎、春に愛媛しまなみ海道、この夏は岡山県は剣豪・宮本武蔵の故郷に出向き、温泉ライフをたしなんでまいりました。仕事がら長期休暇が取れない身ゆえ、温泉に浸かるためだけの弾丸ツアーはまさしく命の洗濯。で、温泉のあとのビールがこれまた、「五臓六腑」に染みわたって美味いことこの上なし!

ハイ、ベタな話ですみません。臓腑を解説する号では、話のさわりはこれでいこうと、ずっと前から決めてましたので(笑)。

1.臓腑とは

臓腑とは東洋獣医学における主要内臓器官のことです。解剖学に基づいた西洋獣医学の内臓とは名前が同じものが多くありますが、厳密には同じではありません。東洋獣医学における臓腑は内臓そのものを指すだけではなく、その生理機能や病理変化も含んだ総称を意味し、以下の3種類に分類します。

①「臓」は実質性の器官で、精・気や生活物質を作ったり蓄えたりする働きがあります。
 ②「腑」は中空性の器官(袋状)で、運搬・排泄などを行っています。
 ③臓でもなく腑でもないが両者の性質を有するものを「奇恒の腑」といいます。
 臓腑の位置・生理機能は病体の現す症状や経絡の働きなどから考えだされたもので、陰陽五行論とも関係づけて体系化されてきました。五行論に基づいた臓腑と他器官の関連性を表1にしました。また西洋獣医学の内臓との関連・相違を表2にしました。
2.五臓五腑?五臓六腑?六臓六腑?

表1と2を真面目に見てくれた読者の方は疑問に思ったことでしょう。臓腑は一体いくつあるのか?ワタクシがビールを飲んだときに染みわたる臓腑はどうなっているのか?

実はこれには諸説ありますが、ワタクシの好きな説をお話します。

古代中国では陰陽論・五行論が思想の根底にあり、まずは体の働き(生理作用)を五行に分け、それぞれに臓と腑を当てはめました。これが五臓五腑です(表1参照)。このとき、臓は陰、腑は陽となり、同じ五行に属する臓と腑は裏と表の関係(表裏関係)にあるとされます(木では肝と胆、火では心と小腸)。つまり臓腑は五つのグループに分けられました。ところが、解剖学的には腎だけは左右二つあるため、腑が一つ足りず数が合いません。そこで腑に、三焦を加えました。三焦は上焦・中焦・下焦の総称で、体幹部(胸からおなか)の水分代謝にかかわっています。西洋獣医学におけるリンパ系に近いものです。これでワタクシが飲んだビールがしみわたる五臓六腑が揃いました(笑)。ところがです、そうすると今度は三焦と表裏関係になる臓がありません(腎に二役任せる手もありますが)。また、十二正経に臓腑をを一つ一つ対応させるためには、もう一つ臓を作らないと勘定が合いません。そこで、臓腑の中でも最も重要視されている心を保護する心包を臓の仲間に入れました。ってことは、なかば無理矢理?いえいえ、この大らかさこそが、東洋獣医学・中国思想のいいところでもあるのです。そう解釈してください。こうして、無事に六臓と六腑が出揃いましたとさ。めでたしめでたし。

ところで以前に解説した経絡のうち十二正経は、一定のパターンで体表を走りつつ、体内ではそれぞれに対応する臓腑と連絡しています。ある臓腑に病があれば、その属する経絡に反応が現れます。従って体表の経絡の反応や脈を診察して経絡上にある経穴に治療を施すことによって臓腑の病を治すことができるのです。先月紹介したツボマッサージでも、たとえば肝臓が悪いワンコは肝経をマッサージすることはプラスになります。この、経絡と臓腑の切っても切れない深い関係は「臓腑経絡学説」と言われ、ワタクシが実際に鍼灸治療を行う際にも欠かせないものです。病院を訪れるワンコたちの健康のためにも、頑張って道を究めねば、と原稿を書きつつ決意を新たにする次第です。そしてこれを無事書き終えたらば、美味いビールを飲んで五臓六腑に染みわたらせよう、っと。落ちまでベタですみません()