東洋獣医学−経絡


小学校に上がる前くらい、子どもの頃は地図を広げて鉄道路線図を眺めながら、あれこれ想像するのが好きでした。と言っても、鉄道マニアでも引きこもりでもなかったんですよ()。線路は日本列島中を網目のように走り、どこまでも繋がっています(国鉄が民営化されてからは廃止路線が増えて、そうでもなくなりましたが)。今回、経絡の原稿を書くために改めて経絡図を眺めていたら、そんな子ども時代を思い出してしまいました。年をとると思い出ばかりが増えるもんです。

経絡は「気」が体中を流れるための線路です。JRのように、廃線はありません()。目には見えねどワンコの体に存在しています。

1.経絡とは

経絡という言葉は、普段あまり耳慣れないと思います。先ほど触れましたように、生命エネルギーとも言うべき「気」が体の中を通るための道で、ワンコの全身にあまねく行きわたり、体内では五臓六腑と連絡しつつ体の表面では主要なポイントに経穴(ツボ)を開いています(ちなみに、経絡が線路ならツボは駅ってことになりますでしょうか)。

「経絡」は経脈と絡脈の総称です。このうち「経脈」は体内を新幹線みたいに直行する幹線径路で、「絡脈」は経脈から枝分かれして、ローカル線みたいに全身を網目状に走る支線にあたります。これら経絡の系統を表にしてみました。まずはご確認ください。このうち、実際の鍼灸治療や家庭でのツボマッサージに重要でよく使う経絡としては、「十二正経」と「十四経脈」があります。

2.十二正経と十四経脈

 経絡もまた、世界の万物と同様、陰陽に分類できます。体中を走る経絡は、ワンコが四本足で立った時に太陽が当たる部位(背中や足の外側など)を「陽」、日陰になる部位(お腹や足の内側)を「陰」とします。

 十二正経とは前肢を流れる3陽経と3陰経、後肢を走る3陽経と3陰経、合計12パターンの経脈のことです。十二正経は体の正中線を境に左右対称に存在し(足は左右2本ずつあるので、12×2=24本あります)、それぞれ体内の重要な臓器と関連を持ちつつ機能しています。

 また、体の正中線上、背中側を走る経脈は陽グループの親玉で「督脈」、お腹側は陰グループの大将で「任脈」と言い、共に奇脈に属し、陰陽を調節する重要なツボがてんこ盛りです。十二正経と督脈・任脈を合わせて「十四経脈」とします。前号までで紹介してきたツボやこれから紹介していくツボも、全部この十四経脈の上に存在しています。 

 この「十四経脈」の関係をまとめて表2にしてみました。ややこしいけど、ここはしっかり読んでください。東洋獣医学の奥義の一端がつまっております。覚えといて、損はないですよ。

表の左側が陰の脈、右側が陽の脈です。陰陽とも走行部位により3グループに分けられますが、それぞれの上段は前肢、下段は後肢に存在します。生命の根源である「気」はこれらの経絡内を常に循環しており、それには一定の順路があります。それが表の矢印の順です。つまり、気は肺経から大腸経→胃経→・・・→肝経を巡り、再び肺経へと回ります。これが十二正経の本線で、その他にも各経同士が連絡しあうツボ(絡穴や交会穴などと言います)が多数存在し、気は全身を縦横無尽に走りつつ細胞・組織内を満たしているのです。つまり、以前に述べた陰陽論の基本そのままに、すべては陰と陽に絶えず変化しつつ繋がり合っているわけです。この原理に最初に気づいた古代中国の方、本当に偉いですね(しみじみ)。

3.経絡の機能

 さて、ではこれら経絡は、ワンコの体内でどのような役割を果たしているのでしょうか。

@生理面・・気を運行し、栄養物質を全身に送るなどの生命活動を支える。

A病理面・・病邪(病気の原因)もまた経絡を通り広がっていきます。

B治療面・・鍼灸・マッサージによる刺激を伝達し、臓腑の陰陽バランス調和をはかる。

みなさあん、理解できましたか?頑張りましょう。愛するワンコのツボマッサージをするのにも、何もわからず行うより気の流れる道筋とか意味を少しでも理解した上で行ったほうが効果は確実に上がりますから。次回は経絡とツボのお話を解説していきます。