東洋獣医学−陰陽論


 先月号「気血水」の原稿をうちのスタッフに読んでもらったところ「難しくてさっぱりわかりませ〜ん」と言われてしまいました。オーショック!

 難解極まる東洋獣医学を誰が読んでもわかりやすく、しかも面白く解説する、それが私に課せられた使命だったのに(だったかな?)このままではいけませぬ。関西人の名誉にもかけて、今月からは奥義の数々をわかりやすいように噛み砕いてお届けいたします。今回のテーマは、東洋獣医学の基礎となる「陰陽論」、相手に不足はありません。

 と言うことで・・では、みなさん始めましゅよお、いいでちゅかあ・・幼稚園じゃあるまいし、これはやりすぎですね()

1.東洋獣医学の世界観

 最初に質問です。「この世界はいつ、どうやって始まったのでしょうか?」

宇宙物理学の世界では約140億年前にビッグバンが起こり、それから今日まで、そしてこれからも宇宙は膨張を続けていると考えられています。では、ビッグバン以前は?科学的にはまだ解明されていないそうです。

 東洋思想においては、この世界が始まる前は「無極」であったと言います。無極は何もないという意味ではなく、別名「混沌(カオス)」とも言い、あらゆるものがごちゃ混ぜになってわけがわからない状態のことです。やがてカオスが秩序化され「太極」となり(ここがビッグバンに相当します)、やがて太極の中から上昇する気(陽の気)が生じて天ができ、同時に下降する気(陰の気)が生じて地ができ、世界が始まったとされます。その後、陰の気と陽の気はさまざまな形に変化を続けて時には現れ時には消え、次々とこの世界に存在する万物が誕生しましたとさ。

これを図式で表すと、次のようになります。

「無極」→「太極」→「陰陽」→「万物」

2.陰陽の分類

 そういう意味では、この世界に存在するものは全て太極から生じ、陰と陽に分類することができると言っていいでしょう。

 そもそも古代中国人が陰陽を最初に定義づけたのは、太陽が昇ってできる日陰(陰)と日なた(陽)でした(意外と身近から入ったんですね)。それから空を見上げて宇宙に思いをはせ、月(陰)と太陽(陽)を陰陽に振り分け、さらに女(陰)と男(陽)を区別し、体の中の内臓も分類し・・・と言った具合に、自然現象から生物の営み、心の働きに至るまで森羅万象(この世にあるものすべて)を分類していきました。代表的なものを表にまとめてみました。先月号で解説した「気血水」も入っています。

 ここで大切なのは、陰陽の言葉のイメージに囚われないでほしいことです。陰だから暗い、陽だから明るい、と言う意味ではありません。陰陽論はあくまでも、対比する二つのものを分類する、相対的な考え方です。また、たとえば、地球は太陽と並べたときは陰になり、月と比べたときは陽となる、と言う風に流動的でもあります。

3.太極図の意味するもの

 さて、このページにいくつも使われている図は「太極図」と言い、万物の根源である太極から陰陽が生じるさまを表すシンボル図です。陰陽論が文献に登場するのは2000年前の皇帝内経で、太極図がお目見えするのはもっと後の11世紀、宋の時代です。

この太極図、見ようによっては、白いワンコと黒いワンコが出会って、お互いにお尻の臭いをかぎ合っているみたいですね(人がなんと言おうと、私にはそう見えますっ)。

右側の黒いワンコは「陰」で下降する気を意味し、左側の白いワンコは「陽」で上昇する気を意味します。陰は陽を、陽は陰を取り込もうとしており、ちょうどお互いのシッポをくわえようとしているみたいです。そして最も大切なことですが、陰陽は常に動いており、陰は図の@からAに向かうほど強くなり、Aで極まると陽に転じます。同様に陽はAから@へ行くほど強くなって、@でマックスになり陰に変じます。太極図はこのように、すべてのものは静止しているわけではなく循環しつつ永遠に変化していくものであると説いています。

 また、陰の中心にある白い点は「陰中の陽」、陽の中央の黒い天は「陽中の陰」と言います。すべては陰か陽に区別できるものの、100%の陽や100%の陰はない。物事はすべからく中庸(何事もほどほどに)をよしとする、といったところでしょうか。

 以上をまとめますと陰陽論は、

この世の中のものすべてを大きく二つに分類してとらえる理論で、

@すべてのものはつながっており、関連性がある。

Aすべてのものは動き変化する。しばしば循環し、繰り返す。

B何事もほどほどがよろしいようで。

東洋獣医学のみならず、東洋哲学から世界観にまで影響を及ぼすこの陰陽論、人生の真理を語っていると思いません?