東洋獣医学−気


タイトル下の私の紹介文、編集の方が考えてくださったものです。ちょっと変わった獣医かあ・・当たっているだけに気に入ってます。(笑)。

今回からは東洋獣医学の理論を、数回に分けてなるべくわかりやすく、なおかつちょっと変わった感じで(こだわってる?)解説して参ります。この一ヶ月間、どうやって文章にしようかと考え抜いて仕事が手につきませんでした、と言うのは嘘ですが、連載を全部読むと東洋獣医学のことがわかって、しかもワンコの健康に役立つツボマッサージがマスターできるようにしたいと思います。だから皆さん、これからも「Wan」を定期購読しましょう(笑)。

 さて、東洋獣医学の基礎理論は「陰陽」「五行」「経絡」「気血水」「臓象」などなど、ざっと並べてだけでも深遠にして難解です。今月は東洋獣医学の基本中の基本、生命の根幹「気」を中心にお話していきたいと思います。

1.「気」とは何ぞや

 「気」という言葉は、我々の日常生活でも普通に使われています。一例をあげると現に今、私は原稿を書くのに「気合」を入れ、言葉に「気」をつかい、考えが煮詰まるたび「気」が滅入り、書き終わったらきっと「気分」良く「元気」になることでしょう。

 東洋獣医学の思想においては、宇宙・自然と生命・ワンコは別個の存在ではなく、全ての事象は常に繋がっており関係性があると考えます。「気」はこの宇宙・生命の全てに偏在し、でも血液や内臓のように目に見えるものではなく、働きだけあって形のないものです。空気や電気と似ている部分もありますが、「生命エネルギー」が一番近い概念かと思います。その定義は難しいのですが、

・生物から宇宙までのすべてを構成する基本物質

・生命活動を行うための根本的な物質

と言えます。そして、この「気」のバランスが崩れたり体のどこかで滞ったりして病んだ状態になることを「病気」と呼びます。実際に病院で鍼治療をしているときも、「気」は見ることも触れることもできませんが、後肢麻痺のワンコを鍼治療した後など、硬く冷えていた足の裏が治療前に比べて暖かくなったりすると、滞っていた「気」が少し通じたのかな、と感じたりします。

2.気はどこにあるのか?

西洋獣医学の理論には「気」に当たるものは存在しません。ワンコは食物を消化吸収して、呼吸から得た酸素と反応させてエネルギーを発生させて生命活動をしています。そのツールとして血液、神経、ホルモン(内分泌)が三本柱として考えられています。それに対して東洋獣医学の理論では、根っことなるベースに「気」があります。

「気」は現代科学ではまだ存在が証明されていません。だから「気」は実在しない、と主張する人もいますが、それは早計と言えます。例えば宇宙空間はつい最近まで何もない真空空間と考えられていました。ところが物理学(量子論)の発達とともに、宇宙空間は素粒子が絶え間なく対発生しては対消滅する、高エネルギーな場であることがわかってきました。「気」もいずれ解明される日が来るかもしれません。

東洋獣医学では「気」はワンコの体を構成するすべての細胞に存在し、常に全身を巡っていると定義します。体内の「気」の通り道を「経絡」、その途中にあって「気」の調節を行うポイントを「経穴(ツボ)」と呼びます。これらについては次号以下で詳しく説明しますネ。

3.「気」の分類と機能

ワンコは生まれてすぐに自分で動き出します。これは親からもらった「先天の気」のおかげです。「先天の気」は別名・「元気(原気)」と言い、腎に蓄えられています。ところが生まれたワンコは食事をしなければ生きていけず、呼吸をしなければ死んでしまいます。つまり、「気」を外界から補給しながら生きていきます。このうち、空気から得られるものを「清気」、飲食物から得られるものを「水穀の気」と呼び、二つをまとめて「後天の気」と言います。ワンコはこの3つの「気」を使って生きていることになります。

 では、「気」は具体的にどのようにワンコの中で働いているのでしょう。要約すると、次の6つの作用があります。

@推動作用・・身体の成長を促したり、血の巡りなどの生理機能を維持する

A温煦作用・・体温維持

B防御作用・・邪気の侵入を防ぐ

C固摂作用・・体内の物質(血やリンパ液など)が流出するのを防ぐ

D気化作用・・飲食物を生命活動のエネルギーに変換する

E栄養作用・・身体の組織や器官を養う

今回は、東洋獣医学の根本・「気」をおおざっぱに説明させていただきました。東洋獣医学の基本中の基本として、ワンコの健康のためには充分に「後天の気」を取り込んで「気」を充実させることが何よりも肝心なことが理解していただけたでしょうか。ところでワンコは「気」の力だけで生きているわけではありません。来月は「気」と並んで身体・生命活動を支える「血」「水」を中心にお話していきます。季節は寒い冬です。ワンコも飼い主さんも体を暖かくして、「気」を高めて「元気」にお過ごし下さい。