東洋獣医学-治療法

 十月の連休に学会で鳥取に行き、その折に境港の「水木しげるロード」に寄ってまいりました。いえ、この際ですから正直に言いましょう。水木しげるロードに行きたくて、ついでに学会に行ってきました、と()。水木しげるロードは、「獣医師界一の妖怪通」を自負するワタクシにとって、高校球児の甲子園に匹敵する聖地。ねずみ男や一反木綿、油すましなどと戯れ、学会のことなどすっかり忘れて没頭したことは言うまでもありません。例によって温泉にも浸かったし、いい旅行でした、いや学会ツアーでした()

 さて、今回は治療の話です。結論から言うと、治療はわれわれ専門家に任せてください、ってことになりますが、それではお話が続きませんので、治療方法の基本をなるべく簡単にご説明いたしましょう。

1.治療法その一・鍼灸治療

 弁証論治にてワンコの病状が把握できたなら、続いては治療に用いるツボを決定し(取穴)組み合わせて用います(これを配穴法と言います)。たくさんのツボを使えば体に良さそうな気がしますが、実際には効果的なツボをより少なく選んだ方がワンコの負担も少なく、治療効果はかえって上がります。鍼灸治療では伝統的に数々の取穴・配穴法があります。まずはツボのとり方から。

①近部取穴・・膝が痛いときは膝のツボ(委中、陽陵泉など)を取るように、病変が現れている部位近くのツボを使う。

②循経取穴・・病変から離れたツボを選んで治療することで、主に手足末端のツボが使われます。病変のある臓腑を弁証で決定し、関連する経絡上のツボが多く使われます。

③特定穴取穴・・原穴・五行穴・背兪穴などは他のツボに比べて特定の症状に治療効果があるので、好んで使われます。

では次に、複数のツボを同時に使用する配穴法の伝統的なものを列記します。

①前後配穴法・・体の前(胸腹部)と後(腰背部)のツボを組み合わせる。

②上下配穴法・・上半身と下半身のツボを組み合わせて用います。

③左右配穴法・・十二正経は体に左右二本ずつあります。左右の同じツボを同時に刺激する方法です。

④遠近配穴法・・患部付近とそれに対応する遠い部位のツボを同時に使う方法。

 いかがですか、さっぱりわからないですか(笑)。ご家庭で出来るツボマッサージも鍼灸治療と同じでワンコのツボを選んで刺激するものですから、何となくでもいいから理解してやってくださいな。知らずにするよりも知ってする方が効果が高いはずですよ。

2.治療法その二・薬物内治法

 さて、この連載ではツボマッサージや鍼灸治療を数多くご紹介してまいりましたが、東洋獣医学には薬物を用いた治療方法が双璧のごとく存在します。漢方薬なんかは馴染み深いですよね。ここでは薬物治療の根本である「八法」を簡単に説明しましょう。これは薬物がワンコの体に及ぼす効果を八種類に分類したもので、以下のとおりです。

①汗法・・薬を用いて発汗させる。

②吐法・・有毒物を吐き出させる。

③下法・・便通を促し解熱させる。

④和法・・病が表裏はっきりしないときに用い、体のバランスを正す。

⑤温法・・体を温め、陽を補給する。

⑥清法・・熱を清める。

⑦補法・・栄養不足など虚弱症状を補う。

⑧消法・・体内で停滞したものを動かす(食滞など)。

 実際に薬物を用いて治療する際には、優に二百種は超える薬草類から、先の八法を考慮しつつ病状に合わせて組み合わせ処方することになります。ただ残念なことに、臨床の現場としては動物用医薬品として認可された薬物はまだ数が少なく、鍼灸治療と同様にこれから発展させるべき状況にあります。ワタクシも勉強しなければ(学会ついでに遊びに行ってる場合じゃないですよね、すみません)。

 さて、一年余りにわたり連載されたこの東洋獣医学も、いよいよ来月が最終回となりました。果たしてどのようなオチで終わらせるのか、ワタクシ自身にもわかりませんし、子泣き爺やベトベトさんたち妖怪にも想像できますまいて。