東洋獣医学-弁証論治その弐

 全国二千万人の阪神タイガースファンの皆様、今年もお疲れ様でしたっ。優勝は逃したものの、楽しいペナントレースでしたね。強くなってから応援し始めたにわかファンでなく、万年最下位だった頃もタイガースを愛していたワタクシのようなコアなファンは知っています。野球も人生も、大切なのは結果ではなくプロセスだ、と。一位だって最下位だって、一年間楽しませてもらったんだから、いいじゃないか。経営統合も、いいじゃないか。日々、ワクワクさせてもらってありがとう。どうです、コアなタイガースファンになると、人格形成や人生修行ができて、二倍お得ですよ(笑)。

 東洋獣医学はしばしば、西洋あるいは近代獣医学に比べると、治療速度の点では劣りがちです。しかしワンコの状態をじっくり吟味し、診断から治療へのプロセスを大切にするその姿勢はタイガースファンにも似て、一種の美学すら感じさせます(そう思うのはワタクシだけ?)。今月は弁証論治の進め方を見ながら、そんな美学を実感してみてください。

1.弁証法

 弁証を進めるには、先月号で名前だけ紹介した伝統的な弁証法を用いるのが一般的です。それぞれを簡単に説明しますと、

①八綱弁証・・ワンコの病態を把握するために、ワンコを4つの質問で分類する診断方法です。「陰と陽」「虚と実」「裏と表」「寒と熱」の4グループあり、全部で8項目あるので八綱と言います。このうち陰と陽は八綱のキャプテンで、陰チームは「陰・虚・裏・寒」陽チームは「陽・実・表・熱」です。弁証論治のベースとなる重要な手法です。

②気血津液弁証・・生命の基本物質である気血津液(水)の状態を調べて体調を診断する方法。

③臓腑弁証・・臓腑の病変を基準として症状を細かく分析し、診断する方法。臓腑と気血津液は密接な相互関係があるので、②と③はしばしばセットで弁証が行われます。

④営気衛血弁証・・温熱病(発熱性疾患)の進行具合を段階別に分類する方法。

⑤三焦弁証・・温熱病が上焦(肺・心)中焦(胃・脾)下焦(腎・肝)のいずれの部位にあるかを弁証する方法。

⑥六経弁証・・傷寒病(急性熱性病)の進行過程を六つに分類・弁証する方法。

 一般的な病状については①を中心に、②③を補足的に使って弁証します。

2.実際に弁証してみよう

 病の実体をとらえるには、「病因」「病位」「病態」「病期」の4つについて考察します。

①病因・・病気の原因。第十回で解説した環境要因(六淫)内面問題(七情)や、生活態度(飲食不摂生、運動不足など)体質(肥満、虚弱など)をチェックして原因を探します。

②病位・・病気の場所、つまり邪が今どこにあるかを調べます。八綱の「裏表」を使い、邪が体表(皮膚、筋肉、経絡上など)にある場合は「表証」、体内つまり臓腑にある場合は「裏証」と言います。

③病態・・病気による現在の体調がどうなっているのかをみます。病気とは「正気」と「邪気」が闘っていることです。この力関係は主に「虚実」を使って分類します。邪が盛んなときは「実証」、正気が弱っている場合は「虚証」と言います。

④病期・・で、病気が今はどうなっているか。病気・体調は時々刻々変化していますが、早い話、治りつつあるのか悪化しているのか、これを見極めることが大切です。具体的には病は進行すると、表(体表)から裏(臓腑)へ、実証から虚証へと進行する傾向があります。

 以上をわかりやすい言葉で説明するなら、弁証とは「病気は何が原因で始まり、今はどこの場所に邪があって、病気の状態はどんな感じで、具体的に良くなりそうなのか悪化しそうなのか」を見極めることです。八綱弁証に則ってワンコの病状を「裏表」「虚実」「寒熱」のどれに該当するか分類すると、全部で2×2×2=8通りの「証」がたてられます。これを元に、さらに気血津液弁証を用いて体内の気血水がどんな状態か、臓腑弁証で病んでいる臓腑が具体的にどうなっているのかを、主に虚実・寒熱の観点から調べます。こうしてワンコの病気の全貌をつかんだら、次は治療です。実際の治療はわれわれにお任せいただくとして、東洋獣医学の治療方法のエッセンスを来月はご紹介したいと思います。