東洋獣医学-弁証論治その壱


 以前にもお話しましたが、われわれ臨床獣医師にとって獣医学は果てしない海のように広大で、知識・技術とも一つを極めるのではなく「浅く広く」になりがちです。ワタクシの場合、仕事のみならず生き方そのものも浅く広いので、獣医学のほかにいろんな事に首を突っ込んでいます(紹介欄参照)。最近は古代生物学の本を読んでいるのですが、正直わけわかりまへん。用語は馴染みないし、理論は難解だし、チンプンカンプン。ええっと、何が言いたいかといいますと・・・難解で、しかも馴染みのない東洋獣医学の話に毎月お付き合いくださる心優しき読者の皆様、ありがとうございます。ご理解いただくのに少しはお役に立てているでしょうか。前回までで、基本的な用語と理論の解説は一段落した感があります。今月と来月の二回にわたって、病気の診断方法を解説します。ここからは正直、今まで以上に難解になりますぜっ、お覚悟を。

1.弁証論治とは

 東洋獣医学の、病気に対するアプローチ法を総称して「弁証論治(べんしょうろんち)」と言います。これは弁証と論治を合わせた言葉で、それぞれには次のような意味があります。

・弁証・・・疾病の分析診断。西洋獣医学で言う「診断方法」

・論治・・・治療方針の決定。西洋獣医学の「治療方法」にあたります。

つまり、診断を下して病気の全貌を知り、それに見合った治療方法を選択する、と言うステップは洋の東西を問わず同じなんですね。 参考までにふしみ大手筋どうぶつ病院のモットーは「正しい診断、正しい治療、正しい医療」であります。ちょっとだけ、PRさせてもらいました()

では、弁証論治の前半部分つまり「診断方法」についてみていきましょう。

2.弁証論治の方法

弁証の「証」は臨床現場で現れるワンコのさまざまな生理的・病理的状態の総称で、これを見極めることが即ち弁証です。弁証を行うことは、名探偵コナンや金田一耕介が事件を推理・解決する手法と似ています。つまりワンコを前にして事実関係を把握し、その証拠を集め、ウラを取って病の正体(犯人)を明かしていくのです。そこで活躍する道具、と言うか手順は大きく次の三つです。

①主証・・・患者自身が訴える症状。ワンコはしゃべってくれないので、飼い主さんからの情報が主証となります。

②兼証・・・主証以外に見られる随伴症状。

③四診・・・経絡の解説(第七回)でも触れましたが、体全体を眺めてチェック(望診)心音などを聴く(聞診)状況を尋ねる(問診)体に触れてみる(切診)の四つの診察方法。

こうして弁証を進めていく際に重要なのは、証すなわち病気の実態は常に変化していく、ということです。これは「万物は陰と陽の間を変化したり五行(木火土金水)の中でグルグル循環流転する」という世界の法則にも通じます。また、同じ病気、たとえば胃腸炎であっても、ワンコの年齢や体力によって証は異なっており、論治つまり治療方法も変わってきます。ここらあたりが、胃腸炎にはとりあえずこの薬を、という西洋獣医学の治療方法とは違ってオーダーメードの味がしますね。ワンコごとに、また時間経過ごとに弁証論治が変わっていくのは病気を治すためには理にかなっていますが、その反面きっちりと弁証を立てねば病を治せない、という難しさも持ち合わせています。

3.弁証の分類

 さて、では具体的に弁証はどのように行われるのか。ここが知識と技術を駆使する獣医師の見せ場ですが、ツールとしての伝統的な弁証方法はモチロン存在します。代表的なものを表にまとめました。これを使って来月は弁証の手順を一緒に見ていきましょうね。

 難しいですか?来月もきっと読んでくださいねえええ、心優しき読者の皆様っ!